財務管理

工事代金の入金と支払いのズレはなぜ起きる?建設業の資金繰り対策の考え方

監修:金井 雅弘

建設業で手元資金が足りなくなる主な原因は赤字ではなく「入金と支払いのタイミングのズレ」です。材料費・外注費・労務費は着工後すぐに先払いが発生し「未成工事支出金」として資産計上される一方、工事代金の入金は完成・検収後の請求までまとまりません。工期が長い案件や下請構造が多層になっている案件ほど、この資金の谷は深くなります。対策としては、公共工事であれば前払金・中間前払金制度の活用、民間工事であれば契約時の中間金交渉に加え、案件ごとの支払い・入金タイミングを可視化し、運転資金の調達を資金が逼迫する前に検討しておくことが挙げられます。本記事では、このズレが生まれる構造と、法人としてどう備えるかの考え方を整理します。

なぜ「入金」より「支払い」が先に来るのか

未成工事支出金という資金の谷

工事を受注すると、着工後すぐに材料の仕入れや外注先への発注、現場労務費の支払いが始まります。これらの費用は会計上「未成工事支出金」として資産計上されますが、実際にはすでに現金が社外に出ている状態です。工事が完成し発注者の検収を経て請求書を発行するまで、この支出は売上として回収されません。工期が数か月から1年以上に及ぶ案件では、支払いが先行する期間が長くなるほど、手元資金を圧迫する「谷」が深くなります。

さらに、下請・孫請への支払いは元請からの入金より先に発生するケースが多く、多重下請構造そのものが資金繰りを難しくしている面もあります。国土交通省も下請代金の適正な支払いの確保に向けて、建設業者団体や都道府県に対して支払適正化の徹底を求める通知を出しており、業界全体の構造的な課題として位置づけられています(国土交通省「建設産業・不動産業:下請契約及び下請代金支払の適正化並びに施工管理の徹底等について」)。

入出金タイミングのズレを整理する

一般的な民間工事の資金の流れを単純化すると、次のようなズレが生じます。

フェーズ支払い(現金流出)入金(現金流入)
受注・着工前見積・設計費用の一部負担契約時の着手金(案件による)
着工〜中間材料仕入れ、外注費、労務費が継続発生中間金がある場合のみ一部入金
竣工前後追加工事・手直し費用が発生しやすい検収完了まで入金なし
検収後請求書発行後、支払サイト分の期間を経て入金

このように、支出は着工直後から継続的に発生するのに対し、入金は工事完了後の一点に集中しがちです。特に元請が公共工事のように前払金・中間前払金制度を利用できない民間工事では、この谷がより深くなる傾向があります。

資金の谷が生まれる主な要因

工期の長期化と追加工事

天候不順や資材の納期遅延、設計変更などにより工期が延びると、当初想定していたよりも支払いが先に膨らみ、入金だけが後ろ倒しになります。追加工事が発生した場合、追加分の請求・入金はさらに遅れることが多く、資金繰り計画とのズレが拡大しやすい要因です。

下請構造による支払いの多層化

元請・一次下請・二次下請と重なる構造では、末端の事業者ほど支払いサイトの影響を受けやすくなります。下請代金支払遅延等防止法(下請法)や建設業法では下請代金の支払期日に関するルールが定められていますが、実務上は「入金してから支払う」余裕がなく、自社の手元資金で立て替える場面が生じます。

資金繰り対策として検討できること

公的な前払金制度を活用する

公共工事では、着工資金確保のために請負代金の一定割合を前払いする「前払金制度」や、工期半ばに追加で前払いを受けられる「中間前払金制度」が用意されています。中間前払金は当初前払金の支出済みであること、工期の2分の1を経過していること、出来高が請負金額の2分の1以上であることなど一定の要件を満たせば申請でき、資金繰りの谷を浅くする手段の一つです(国土交通省 関東地方整備局「資金繰り対策」)。民間工事が中心の会社でも、発注者との契約時に中間金の設定を交渉できないか検討する余地はあります。

案件ごとの資金繰りを可視化する

工事1件ごとの入出金タイミングは案件によって異なるため、全社の預金残高だけを見ていると「どの案件のどのタイミングで資金が不足するのか」が見えにくくなります。案件別の支払予定・入金予定を並べて、複数の工事が同時に「支払い先行フェーズ」に入るタイミングがないかを事前に把握しておくことが重要です。月次の資金繰り表では月中の谷を捉えきれないため、支払いが集中する月は日繰り表(資金日計表)の作り方で解説している日単位の管理を併用すると精度が上がります。表の更新が続かない場合は、その構造的な原因を資金繰り表のExcel更新が続かない理由で整理しています。

運転資金の調達を早めに検討する

受注が増えるほど立て替えの規模も大きくなるため、受注拡大局面ほど運転資金の確保が課題になりやすいとされています。日本政策金融公庫など公的金融機関の事業資金融資は、資金使途や事業規模によって窓口や制度が異なるため、自社の状況に合った相談先を早めに確認しておくことが望まれます(日本政策金融公庫「事業資金 中小企業の方」)。資金が逼迫してから動くのではなく、資金の谷が来る前に相談を始めることで、選択肢を広く持てます。相談時には取引金融機関ごとの借入状況を1枚にまとめておくと話が早く、その項目設計は銀行取引状況一覧表の作り方、面談当日の進め方は銀行融資面談、準備すべき資料と話す順番を参考にしてください。

対策の一覧表

対策目的検討ポイント
前払金・中間前払金の活用着工資金・中間資金の確保公共工事は要件確認、民間工事は契約交渉
案件別資金繰りの可視化谷のタイミングを事前把握複数案件の重なりに注意
支払サイトの見直し支出の平準化外注先・仕入先との条件交渉
運転資金の早期相談谷を乗り切る資金の確保逼迫前に金融機関へ相談(借入余力の見方
追加工事の早期請求入金の前倒し発注者との合意形成を早める

Smart CFO なら、工事案件ごとの資金の流れを一つの画面で把握できる

Smart CFOは、建設業向けの原価管理機能で工事案件ごとの原価・収支計画を単一ビューで管理できます。案件が増えるほど見えにくくなる「どの工事がいつ支払い先行フェーズにあるか」を、案件単位で確認しやすくなります。

また、運転資金の登録・管理機能に加えて、資金繰りダッシュボードでは90日先までの入出金・返済予定を統合して可視化できるため、複数案件の支払いと入金が重なるタイミングを早めに把握する助けになります。あわせて融資相談候補スコアリングにより、運転資金の調達目線を事前に把握しておくことも可能です。なお、Smart CFOは会計ソフトの代替ではなく、記帳や決算業務は対象外です。既存の会計システムと併用しながら、資金繰りの見える化に特化してご利用いただけます。

工事代金の入金と支払いのズレは、建設業という業態の構造上避けにくいものです。だからこそ、谷の深さとタイミングを事前に把握し、公的制度の活用や運転資金の早めの相談と組み合わせて備えておくことが、資金繰りを安定させる第一歩になります。

よくある質問

建設業で受注が増えているのに資金繰りが厳しくなるのはなぜですか?

原因の多くは赤字ではなく「入金と支払いのタイミングのズレ」にあります。材料費・外注費・労務費は工事の進行中に先払いが発生し会計上「未成工事支出金」として資産計上される一方、工事代金の入金は完成・検収後の請求を経てから行われるため、その間は資金が社外に出たまま回収されない状態が続きます。

民間工事でも前払金制度は使えますか?

前払金制度・中間前払金制度は主に公共工事向けの制度で、中間前払金は当初前払金を支出済みであること、工期の2分の1を経過していること、出来高が請負金額の2分の1以上であることなどの要件を満たせば申請できます。民間工事が中心の会社では、発注者との契約時に中間金の設定を交渉できないか検討する余地があります。

建設業の資金繰り対策として何を検討すればよいですか?

前払金・中間前払金の活用や支払サイトの見直しに加え、案件ごとの支払予定・入金予定を並べて複数の工事が同時に「支払い先行フェーズ」に入るタイミングがないかを可視化すること、資金が逼迫する前に運転資金の調達を金融機関へ早めに相談しておくことが挙げられます。

この記事の監修者

金井 雅弘

株式会社フォートラスト 代表

  • 宅地建物取引士

都市銀行での融資業務の経験をもとに、不動産オーナー向けの資金調達支援・財務適正化支援に取り組む。金融と不動産の両面から、賃貸経営の実務に即した視点で記事を監修しています。

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