財務管理

借入金管理をExcelで続ける限界はどこ?不動産・建設会社が乗り換えを検討すべきサイン

監修:金井 雅弘

複数の物件、複数の金融機関、複数の借入契約――。不動産売買会社や建設会社の資金繰り担当者にとって、借入金の管理はExcelの1シートでは到底収まらない仕事になっている。結論から言えば、Excelでの借入金管理につきものの属人化・転記ミス・更新漏れは、担当者個人の能力の問題ではなく、表計算ソフトを台帳システムとして使うこと自体に起因する構造的な限界だ。借入本数が10本、20本と積み上がるほど、属人化したシートやファイルの多重化、手入力による残高ズレといった崩壊パターンが顕在化しやすくなる。借入本数が10本を超えている、シートを触れる担当者が実質1人しかいない、月末にまとめて残高を更新している――といった状態に複数当てはまる会社は、Excel管理からの乗り換えを検討すべきサインが出ている段階だと言える。

それでも「今のところ何とか回っている」という理由で、更新され続ける台帳を後生大事に使い続けている会社は少なくない。この記事では、その限界がどこにあるのかを整理し、次の一手を検討するための材料を提供する。

なぜExcelでの借入金管理は限界を迎えるのか

「1人1シート」構造が生む属人化

Excelでの借入金管理の多くは、担当者が個人の感覚で作り込んだシートに依存している。物件ごとにタブを分けたり、金融機関ごとにブックを分けたりと、運用ルールは会社によってまちまちだ。この状態では、担当者が異動・退職すると、後任者はシートの構造を理解するところから始めなければならない。関数の意味や参照範囲、手入力ルールが暗黙知になっているケースも多く、引き継ぎに時間がかかるうえ、引き継ぎ漏れによる誤入力のリスクも高まる。

不動産売買会社や建設会社は、物件案件ごとにプロジェクトファイナンスや証書貸付を組むことが多く、借入本数そのものが年々積み上がっていく。1本ずつは単純な管理でも、10本、20本と増えると、シートの見通しは急速に悪化する。

手入力・転記による数値ズレ

借入金台帳の多くは、返済予定表を見ながら残高・返済額・金利を手で転記する運用になっている。金融機関ごとに返済予定表のフォーマットが異なるため、転記のたびに人の目でチェックする工程が入り、単純な入力ミスや転記漏れが起きやすい。さらに、複数人が同じファイルを編集する場合、上書き保存によって最新版がどれか分からなくなる「バージョン迷子」も典型的なトラブルだ。

Excel管理でよくある崩壊パターン

実務でよく見かける崩壊パターンを整理すると、以下のようになる。

崩壊パターン具体的な症状引き起こす問題
属人化シート担当者しか関数や構造を理解していない異動・退職時に引き継ぎコストが急増
ファイルの多重化「借入管理_最新版_v3_修正.xlsx」が複数存在どれが正か分からず二重管理になる
手入力の残高ズレ返済予定表からの転記で桁・金額を誤入力資金繰り予測の精度が下がる
更新の属人的タイミング月末にまとめて反映、日次では更新されないリアルタイムの資金繰り判断ができない
金融機関ごとに様式が違う銀行・信金・公庫でシートの列構成がバラバラ全体を横断した一覧化に手間がかかる
権限管理がない誰でも編集・削除ができる状態誤操作・意図しない削除のリスク

こうした崩壊パターンは、担当者の能力の問題ではなく、表計算ソフトを台帳システムとして使うこと自体の限界から生じている。中小機構が運営するJ-Net21でも、資金繰り改善の前提として、運転資金(売上債権+棚卸資産-仕入債務)を把握し資金繰り表を作成することの重要性が指摘されているが、この土台となる借入金や入出金の情報が分散・属人化していては、正確な資金繰り表自体が作りにくくなる(中小機構 J-Net21「資金繰り改善のための財務・資本戦略」)。

複数物件・複数金融機関を抱える会社特有の難しさ

返済予定と入出金予定が別々に管理されている

不動産売買会社や建設会社は、借入の返済スケジュールに加えて、物件の売却入金・工事代金の入金・仕入や外注費の支払いなど、複数のお金の流れを同時に見る必要がある。しかし多くの現場では、借入金の返済予定は借入管理シートに、口座の入出金予定は別の資金繰りシートに、それぞれ独立して存在している。この二つが連動していないと、「今月は返済が集中する月なのに、入金予定の確認を怠っていた」といった見落としが起きやすい。

日本政策金融公庫が公開している資金繰り表のフォーマット(簡易版・詳細版)でも、収入・支出・借入金の返済を一体で捉える構成になっており、資金繰りの全体像を掴むには、借入返済の情報を切り離さずに管理することが前提とされている(日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード 中小企業の方」)。

金融機関ごとに書式・粒度が違う

複数の金融機関と取引していると、返済予定表の様式、金利の表示方法、残高証明の出し方までバラバラになる。これをExcel上で統一フォーマットに変換する作業自体が、毎月一定の工数を食い続ける。物件数・借入本数が増えるほど、この変換作業の負荷は線形以上に増していく。

Excel管理からの乗り換えを検討すべきサインチェックリスト

以下のいずれかに複数当てはまる場合は、Excel管理の限界が近いと考えられる。

チェック項目該当する場合のリスク
借入本数が10本を超えている一覧性が失われ、返済予定の把握に時間がかかる
シートを触れる担当者が実質1人しかいない属人化により不在時に資金繰り判断が止まる
月末にまとめて残高を更新しているリアルタイムの資金繰り状況が見えない
ファイル名にバージョン番号や日付が乱立している最新版の特定に毎回時間がかかる
金融機関ごとに別のシート・ブックで管理している全体の借入残高・返済負担を横断で把握しづらい
資金繰り表を別ファイルで手作業更新している借入返済と入出金予定の突合に手間と誤りが生じる
Excel出力・共有時に誤って古いファイルを送ってしまったことがある誤情報が社内外に伝わるリスク

中小企業庁が推進する「デジタル化・AI導入補助金」でも、会計・受発注・決済など複数機能を持つITツールの導入が支援対象とされており、手作業からの脱却は行政としても後押しする方向にあります(中小企業庁「IT導入補助金・デジタル化支援」)。借入金管理についても、表計算ソフトでの個別運用から、専用の仕組みへ移行する動きは、不動産・建設業に限らず広がりつつあります。

Smart CFO なら複数物件・複数借入・複数金融機関を1画面で管理できる

Smart CFOは、不動産売買会社・建設会社が抱える「物件ごと・金融機関ごとに分散した借入情報」を一元管理できるよう設計されている。

  • 複数物件・複数借入・複数金融機関の情報を一つのシステム上にまとめて登録・管理できる。金融機関ごとに様式の異なる返済予定も、統一された画面で横断的に確認できる。
  • Moneytree連携による口座残高、入出金予定、融資返済のスケジュールを1つの資金繰りダッシュボードで確認できるため、借入返済と入出金予定を別々のシートで突き合わせる手間を減らせる。
  • AIによる科目推定や自動仕訳ルールにより、日々の手入力の負担を軽減できる。
  • 資金繰り表やデータ一覧はExcel出力にも対応している。Excelを完全に手放すのではなく、社内会議や金融機関への提出など、必要な場面ではこれまで通りExcel形式で活用できる。

なお、Smart CFOは記帳や決算処理を代替する会計ソフトではない。あくまで資金繰り・借入金管理に特化したツールとして、既存の会計ソフトと併用することを前提としている。機能の詳細は借入金管理システムの紹介ページでご覧いただけます。

Excelでの借入金管理が悪いわけではない。借入本数が少なく、担当者も限られている段階では、シンプルなExcel運用で十分に機能する場面も多い。ただし、物件数・借入本数・関わる金融機関の数が増えるにつれて、属人化や転記ミス、情報の分散といった構造的な負荷は着実に積み上がっていく。今の管理方法がどのフェーズに差し掛かっているのかを一度棚卸ししてみることが、次の一手を考える最初のステップになる。

よくある質問

Excelでの借入金管理は何本くらいから限界を感じ始めますか?

明確な本数の基準があるわけではありませんが、目安として借入本数が10本を超えたあたりから一覧性が失われ、返済予定の把握に時間がかかるようになります。物件案件ごとにプロジェクトファイナンスや証書貸付を組む不動産・建設会社では借入本数が年々積み上がりやすく、10本、20本と増えるほどシートの見通しは急速に悪化します。

借入金管理をExcelで続けるとどんなトラブルが起きやすいですか?

代表的なものとして、担当者しか関数や構造を理解できない属人化シート、「最新版_v3_修正」のようなファイルの多重化、返済予定表からの転記による残高の桁・金額ミス、月末にまとめて更新するために日次の資金繰り状況が見えなくなる、といった崩壊パターンがあります。これらは担当者の能力ではなく、表計算ソフトを台帳として使うこと自体の構造的な限界から生じるものです。

借入金の返済予定と入出金予定を別々のシートで管理していると何が問題ですか?

不動産売買会社や建設会社は借入の返済スケジュールに加え、物件の売却入金や工事代金の入金、仕入・外注費の支払いなど複数のお金の流れを同時に把握する必要があります。返済予定を借入管理シートに、入出金予定を別の資金繰りシートに分けて管理していると両者が連動せず、見落としが起きやすくなります。

この記事の監修者

金井 雅弘

株式会社フォートラスト 代表

  • 宅地建物取引士

都市銀行での融資業務の経験をもとに、不動産オーナー向けの資金調達支援・財務適正化支援に取り組む。金融と不動産の両面から、賃貸経営の実務に即した視点で記事を監修しています。

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