融資

不動産オーナーの銀行融資面談、準備すべき資料と話す順番を整理する

監修:金井 雅弘

目次

「融資の面談で何を聞かれるのか」「資料は何を持っていけばいいのか」——初めての金融機関との面談はもちろん、久しぶりの追加融資の相談でも、緊張するオーナーは少なくありません。実は面談の印象は、当日の話し方そのものより「事前にどこまで数字を揃えてきたか」で大きく変わります。この記事では、面談前に揃えたい資料、事業全体を数字で語れることの価値、当日に話す順番、そして実際に聞かれる質問と答え方の具体例までを整理します。重視される点や必要書類は金融機関により異なるため、準備の目安としてお読みください。個別の条件は必ず取引先の金融機関に確認してください。

なお、金融庁は金融機関に対して、担保・保証に過度に依存せず事業内容や将来性を評価する「事業性評価」に基づく融資を促しています(金融庁「金融仲介機能の発揮」、金融庁「中小・地域金融機関向けの取組」)。つまり、決算書の数字だけでなく「事業をどう理解し、どう説明できるか」が評価の一部になっているということです。面談の準備とは、その説明材料を揃える作業そのものです。

面談前に揃えておきたい資料一覧

面談は、持って行った資料の範囲でしか話が進まない場です。手ぶらに近い状態で臨むと、質問のたびに「持ち帰って確認します」が増え、次回に持ち越しばかりになります。一般に、次のような資料を揃えておくと、初回から具体的な話に入りやすくなります。

資料押さえておくポイント揃え方の目安
物件一覧(レントロール)所有物件ごとの家賃・入居状況・満室想定との差管理会社の月次報告から直近月を転記
借入一覧金融機関ごとの残高・金利・残期間・年間返済額各行の返済予定表・残高証明書から集計
決算書・確定申告書(直近2〜3期分)事業全体の成績表。面談で深掘りされる中心資料税理士から受領した一式(勘定科目内訳明細書も)
資金繰りの見通し毎月の家賃収入と返済・手残りのバランス直近12か月実績+今後12か月の見込み
購入案件の資料(ある場合)物件概要・収支計画・自己資金と借入希望額販売図面・レントロール・修繕履歴
通帳・入出金明細家賃入金の実在性、他行取引の状況主要口座の直近6〜12か月分

大事なのは、書類を「持っている」ことではなく、それぞれの数字を自分の言葉で説明できる状態にしておくことです。なお、決算書の作り方や税務上の扱いは一般論では判断しきれない部分があるため、税理士等の専門家に確認しながら進めるのが安全です。

「1枚サマリー」を最初に作る

資料が厚いほど良い、というものではありません。相手は限られた面談時間で全体像を掴みたいので、最初に渡すのは A4 1枚のサマリーが効果的です。次のような記入例で十分です。

【事業概要】○○+不動産賃貸業/法人設立 20XX年/代表 ○○
【所有物件】4棟 38戸/年間家賃収入 4,800万円/入居率 93%(直近12か月平均 91%)
【借入】3行 5本/残高合計 3億2,000万円/年間返済額 2,600万円(元金2,150+利息450)
【直近決算】売上 4,750万円/税引後利益 320万円/減価償却費 1,450万円
【今回のご相談】○○市の中古RC 1棟(価格1億2,000万円)の取得資金 1億円/自己資金 2,000万円+諸費用自己手当

この1枚があるだけで、相手は「誰が・何を持っていて・いくら借りていて・今日は何の相談か」を最初の30秒で理解できます。以降の質問も、この紙の上を指しながら進むので、話が散らかりません。

資料は「綴じ順=話す順」で揃える

サマリー → 借入一覧 → 物件一覧 → 決算書 → 案件資料、の順に綴じておくと、当日ページをめくる動きがそのまま説明の流れになります。相手側にも同じ順のコピーを渡し、「3ページ目をご覧ください」と誘導できると、面談は驚くほどスムーズになります。逆に、クリアファイルに順不同で入れて当日探し始めると、それだけで管理の粗さが伝わってしまいます。

「物件単位」ではなく「事業全体」を数字で語る

面談で新しい物件の魅力だけを熱心に話すオーナーは多いのですが、金融機関が知りたいのは「この物件が良いか」だけではありません。「この人に貸して、事業全体として返してもらえるか」です。複数物件・複数借入を持っているなら、全体でいくら借りていて、毎月いくら返し、手元にいくら残るのか——この全体像を即答できるだけで、話の進み方は変わります。逆に「この物件は良さそうだが、他の借入の状況が見えない」という状態では、金融機関は判断材料が足りず、審査は慎重になりがちです。自分の借入が金融機関からどう見られるかの考え方は、借入余力の見方も参考にしてください。

事業全体を語るための3つの数字

暗記しておきたいのは、細かい数字ではなく次の3つです。この3つが口から出れば、事業全体を把握している経営者として扱われます。

数字定義(簡易)なぜ聞かれるか
簡易返済原資税引後利益 + 減価償却費毎年いくら返済に回せるかの目安
年間返済額全借入の元金+利息の年間合計返済原資で足りているかを見る
債務償還年数借入残高 ÷ 簡易返済原資今の収益力で何年かかるかの目安

計算例を挙げます。税引後利益 320万円、減価償却費 1,450万円なら簡易返済原資は 1,770万円。借入残高 3億2,000万円なら債務償還年数は約18年です。賃貸業は物件の耐用年数が長く借入も大きくなりやすいため、この年数が製造業などより長く出るのは珍しくありませんが、「長く出る理由を自分で説明できるか」が分かれ目になります。指標の詳しい読み方は返済余力(DSCR)の考え方にまとめています。

話す順番は「全体 → 相談内容 → 個別 → 資金計画」

一般に、面談で伝わりやすいのは次の順番です。

  1. 事業全体の現状:所有物件・借入・返済の全体像を先に示す
  2. 今回の相談内容:購入・追加融資など、何をいくら相談したいのか
  3. 個別物件の数字:対象物件の収支・入居状況
  4. 資金計画:自己資金と、毎月の返済がどう回るか

いきなり個別物件の話から入ると、「ところで全体はどうなっていますか」という確認に時間を取られます。全体像を先に見せることで、相手は安心して個別の話を聞けます。この順番は資料の並び順でもあるので、ファイルの綴じ順も同じにしておくと当日迷いません。

冒頭2分の話し方(会話例)

最初の2分で全体像を渡しきるイメージを持つと、緊張していても崩れません。次のような言い方が実務的です。

「本日はお時間をいただきありがとうございます。まず全体像からご説明します。お手元1ページ目のとおり、現在4棟38戸を所有していて、年間の家賃収入が4,800万円、入居率は直近12か月平均で91%です。借入は3行5本で残高3億2,000万円、年間返済額が2,600万円。直近決算の税引後利益が320万円、減価償却費が1,450万円なので、簡易的な返済原資は1,770万円と見ています。返済とのバランスは資料4ページの資金繰り表のとおりです。本日は、○○市の中古RCを1億2,000万円で取得したく、うち1億円のご相談に伺いました。」

ここまで一息で言えると、相手は残り時間を「懸念点の確認」に使えます。逆に「実は今日は物件を見つけまして……」から入ると、全体像の確認だけで面談が終わります。

よく聞かれる質問と、答え方の型

面談での質問はある程度パターンがあります。答えを暗記する必要はありませんが、「どの資料のどこを見れば答えられるか」を先に決めておくと、沈黙が減ります。

聞かれること相手の意図答え方の型
「他行さんの借入はどのくらいですか」全体の負担と他行の姿勢を知りたい「3行5本、残高3億2,000万円です。内訳は借入一覧の2ページ目に金融機関別で載せています」
「空室はどのくらいありますか」返済原資の安定性「現在38戸中3戸空室です。うち2戸は退去後の原状回復中で、来月の募集開始予定です」
「この物件を選んだ理由は」投資判断の合理性立地・賃料水準・修繕状況を、周辺相場との比較で説明する
「今回の自己資金はどこから」資金の出所と手元流動性「○○銀行の普通預金から2,000万円です。拠出後も手元は運転資金として○か月分残ります」
「返済が苦しくなったらどうしますか」有事のシナリオ手元資金・他物件のCF・売却可能性の順で説明する
「今後の方針は」継続取引の見込み拡大/維持/整理のどれかを、理由とセットで一言で

「分かりません」の正しい言い方

その場で答えられない質問は必ず出ます。悪いのは、曖昧に濁したり、記憶で適当な数字を言ってしまうことです。後で資料と食い違うと、数字全体の信頼が落ちます。次の型が安全です。

「その数字は手元の資料に入れていませんでした。正確な数字をお出ししたいので、明日中にメールでお送りします。」

そして本当に翌日送る。この一往復が、実は面談そのものより信用に効くことがあります。

つまずきやすい点・よくある誤解

準備の方向がずれていると、時間をかけたのに手応えが出ません。よくあるパターンを挙げます。

  • 誤解1:資料は多いほど良い。厚さではなく、聞かれた数字にすぐ辿り着けるかが重要です。索引のない100ページより、整理された10ページ。
  • 誤解2:物件の魅力を熱く語れば通る。相手が見るのは物件単体の利回りではなく、事業全体の返済可能性です。
  • 誤解3:担保さえあれば大丈夫。担保は要素の一つで、返済原資の説明を省略できるものではありません。事業性の説明が求められる流れは金融庁の中小企業金融の取組でも示されています。
  • 誤解4:数字は税理士に任せているので答えられなくていい。作成は任せてよいのですが、経営者が説明できないと「実態を把握していない」と受け取られがちです。
  • 誤解5:都合の悪い情報は言わない方がいい。空室・大規模修繕・一時的な赤字は、後から出ると印象が悪化します。先に自分から背景と対策を添えて出す方が結果的に有利です。
  • つまずき:家賃入金と通帳が一致しない。レントロール上の家賃と実際の入金額がずれていると、説明に時間を取られます。滞納・フリーレント・管理手数料控除後の入金など、差の理由を先に整理しておきましょう。

面談後にやること(ここで差がつく)

面談は当日で終わりではありません。むしろ、その後の一往復が次回の条件に効きます。

タイミングやること
当日中聞かれた質問・宿題をメモに書き出す(記憶が新しいうちに)
翌営業日宿題の資料を送付。お礼と、依頼事項の再確認を1通で
1〜2週間後進捗を確認。急かすのではなく「補足資料が必要ならお出しします」の姿勢で
決算後依頼がなくても決算書と物件状況を共有する(=定期報告の習慣化)

特に最後の「決算後の定期報告」は、次に借りたい時の下地になります。困った時だけ現れる相手より、平時から数字を共有している相手の方が、話は早く進むものです。

面談1週間前からの準備スケジュール

準備は前日にまとめてやろうとすると必ず破綻します。資料の取り寄せに数日かかるものがあるためです。逆算して次のように動くと無理がありません。

時期やること詰まりやすい点
1週間前残高証明書・返済予定表の取り寄せ、管理会社への最新レントロール依頼発行に数日かかる。郵送だとさらに遅れる
5日前借入一覧・物件一覧を最新化。決算書一式の揃いを確認勘定科目内訳明細書が抜けていることが多い
3日前1枚サマリーを作成。3つの数字(返済原資・年間返済額・債務償還年数)を計算減価償却費を決算書のどこから拾うかで迷う
前日資料を綴じ順に並べ、相手用のコピーを用意。想定質問に声に出して答えてみる数字を口に出すと、意外と言えないことに気づく
当日開始2分の説明を頭で1回リハーサル。名刺・筆記用具・押印可能な印鑑を確認「資料はデータでも」と言われた時に備え PDF も持参

提出後に必ず起きる「追加資料の依頼」に備える

面談で資料を渡すと、その後ほぼ確実に追加依頼が来ます。よくあるのは、賃貸借契約書の写し、修繕履歴、火災保険証券、既存借入の全行分の返済予定表、直近の試算表、納税証明書などです。これらは「言われてから探す」と1〜2週間かかることがあり、その間に案件のスピードが落ちます。あらかじめ物件ごと・借入ごとにフォルダを分けて保管し、依頼が来たら当日中に出せる体制にしておくと、審査の待ち時間そのものが短くなります。書類の整理方法は複数物件の管理をどう回すかも参考にしてください。

Smart CFO なら、面談前の「数字の棚卸し」に時間を取られない

面談準備で一番時間を食うのは、資料を作る作業そのものより、散らばった数字をかき集める工程です。家賃は表計算ソフト、借入は各行の返済予定表、資金繰りは通帳……という管理では、面談のたびに一覧を作り直すことになります(表計算ソフト管理の限界)。Smart CFO は複数物件・複数借入を一元管理し、事業全体の借入・返済・収支を一目で可視化します。面談で「全体でいくら借りていて、毎月いくら返していますか」と聞かれても、根拠の数字をその場で示せる状態を保てます。資料の作り直しから解放され、「何をどう話すか」の準備に集中できます。

金融機関ごとに得意な案件や見る観点は異なります。どこに相談するかの見取り図は不動産投資の金融機関の種類と特徴を、決算書のどこを読まれるかは融資審査で決算書はどこを見られる?を参考にしてください。政府系の制度融資を検討する場合は日本政策金融公庫の融資制度検索で、対象・条件を一次情報で確認できます。銀行実務の一般的な解説は全国銀行協会の記事一覧も参考になります。

面談の前に、融資額の「目線」を知っておく

収益物件の購入や借入条件の見直しを検討する際は、金利・借入期間などを変えたときの手残りも確認しておきましょう。下記の収益物件シミュレーションでは、物件価格・家賃・自己資金などから収支を無料で試算できます。決算書の提出は不要です。試算結果は参考情報であり、実際の収益や融資条件を保証するものではありません。

この記事の監修者

金井 雅弘

株式会社フォートラスト 代表

  • 宅地建物取引士

都市銀行での融資業務の経験をもとに、不動産オーナー向けの資金調達支援・財務適正化支援に取り組む。金融と不動産の両面から、賃貸経営の実務に即した視点で記事を監修しています。

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