融資

不動産賃貸業の借入余力の見方 — 追加融資はいくらまで引けるか

監修:金井 雅弘

目次

物件を増やしたいとき、最初に突き当たるのが「あと、いくら借りられるのか」という問いです。ここが曖昧なまま物件情報だけ探しても、いざ融資相談に進むと「思ったより出ない」「そもそも土俵に乗らない」と時間を無駄にしがちです。

借入余力は決まった計算式で一意に出るものではなく、金融機関ごとの評価基準で変わります。ただし、どの観点から見られるかと、自分の数字をどう並べれば説明できるかは共通です。この記事では、余力を左右する2軸、金融機関が使う代表的な指標、実際に数字を置いた試算例、そして相談前に用意すべき資料までを整理します。実際の融資可否・金額は金融機関の判断によります。

借入余力は「返済力」と「担保力」の掛け合わせ

追加融資の審査では、大きく2つの軸が見られます。

  • 返済力(キャッシュフロー):既存物件を含めた事業全体で、毎年いくら返済に回せる原資が生まれているか。
  • 担保力(資産評価):購入する物件と既存資産が、貸し倒れ時にどれだけ回収を支えられるか。

どちらか一方が強くても、もう一方が弱いと融資額は伸びにくくなります。しかも審査で見られるのは1物件ではなく事業全体です。物件ごとにバラバラに管理していると、この「全体の返済力」を自分でも即答できず、相談の初速で差がついてしまいます。

2軸の組み合わせで、打ち手が変わる

返済力担保力起きやすい結果打ち手の方向
強い強い融資額・期間ともに伸びやすい条件(金利・期間)の比較に注力する
強い弱い期間が短くなる、自己資金を求められる自己資金を厚くする、担保に余力のある物件を追加提供する
弱い強い融資は出ても金額が抑えられる既存物件の稼働改善・経費の見直しで返済原資を厚くする
弱い弱い土俵に乗りにくい取得を急がず、決算1〜2期をかけて数字を作る

「借りられない」と言われたとき、どちらの軸が原因かで打ち手はまったく違います。ここを切り分けずに金融機関を回り続けても、同じ結果を繰り返すことになります。全借入を1枚にまとめる方法は借入一覧表の作り方、融資の種類ごとの使い分けは不動産賃貸業の融資の種類とは?で整理しています。

返済力を見る代表的な指標

金融機関がよく使う考え方に、次のようなものがあります。

観点計算の考え方見られるポイント
債務償還年数有利子負債 ÷ 返済原資(税引後利益+減価償却費)借入残高が、年間の返済原資の何年分か。短いほど余力があると見られる
DSCR(返済余裕率)営業純利益(NOI) ÷ 年間返済額返済額に対して返済原資がどれだけ上回っているか(DSCRとは?)
実質のキャッシュフロー税引後利益+減価償却費−元金返済減価償却や一時費用を調整した後の、実際に手元に残る金額
自己資本比率純資産 ÷ 総資産資産に対する自前の資本の厚み

これらは金融機関ごとに重視度も基準値も異なります。「一般にこの水準なら安心」という固定の合格ラインがあるわけではない点に注意が必要です。同じ数字でも、都市銀行・地方銀行・信用金庫・日本政策金融公庫で見方は変わります。金融機関ごとの傾向は不動産投資の金融機関の種類と特徴にまとめています。公庫の融資制度そのものは日本政策金融公庫の融資制度一覧で、条件や対象を直接確認できます。

数字を置いた試算例

以下はすべて説明のための仮定値です。実在の企業や融資実績の数字ではありません。

前提(例):既存2棟。年間のNOI合計1,200万円、年間返済額合計800万円、減価償却費400万円、税引後利益200万円、有利子負債残高1億2,000万円。

指標計算結果
返済原資税引後利益200万 + 減価償却400万600万円
債務償還年数1億2,000万 ÷ 600万20.0年
DSCRNOI 1,200万 ÷ 返済額800万1.50
実質CF600万 − 元金返済(仮に550万)50万円

ここに、新たに5,000万円・金利2.0%・期間25年(年間返済額約254万円)で1棟追加した場合を重ねます。新規物件のNOIを年350万円と仮定します。

指標取得前取得後動き
NOI合計1,200万円1,550万円増える
年間返済額800万円1,054万円増える
DSCR1.501.47わずかに低下
有利子負債1億2,000万円1億7,000万円増える
債務償還年数20.0年約19.4年(返済原資876万と仮定)改善

この例では、DSCRはわずかに下がる一方で債務償還年数は改善します。「借入が増える=評価が下がる」とは限らず、追加する物件の稼ぐ力が既存のポートフォリオより強いかどうかで全体の指標は動きます。追加取得の是非を、この2〜3指標の前後比較で語れるようにしておくと、相談の説得力が変わります。

逆算:DSCRから借入可能額の当たりをつける

金融機関が「DSCR 1.3以上」を目安に置いていると仮定すると、返済に充てられる上限額から借入可能額を逆算できます。上の例(NOI合計1,550万円を想定)で計算すると、

  • 返済額の上限:1,550万 ÷ 1.3 = 約1,192万円/年
  • 既存の返済額:800万円/年
  • 追加で許容される返済額:約392万円/年
  • 金利2.0%・期間25年なら、年間返済額254万円あたり借入5,000万円 → 約7,700万円が目安

あくまで一方の軸(返済力)だけから見た概算であり、担保評価や自己資金の要件で実際の金額は変わります。それでも「1億円の物件を探すのか、7,000万円台を探すのか」という探索範囲を決めるには十分な精度です。

担保力はどう見られるか

担保評価は金融機関ごとの内規で決まりますが、外から見える手がかりはあります。

評価の要素手がかりになる公表情報
土地の評価相続税路線価・評価倍率(国税庁 路線価図・評価倍率表)、固定資産税評価額
建物の評価構造ごとの法定耐用年数(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)
残存耐用年数中古取得時の耐用年数の計算(国税庁 No.2109)
収益性からの評価NOIと想定利回りから逆算した収益還元価格

とくに影響が大きいのが残存耐用年数です。建物の残存年数が短い物件は、担保評価が伸びないだけでなく、借入期間もそれに合わせて短くされることが多く、結果として年間返済額が重くなり、返済力の指標まで悪化します。築古の高利回り物件で「利回りは良いのに手残りが薄い」となるのは、この連鎖が原因です。手残りの計算方法は収益物件のキャッシュフロー(手残り)を正しく読む方法で解説しています。

決算書だけでは見えない「実態」を補う

賃貸業の決算書は、減価償却が大きく、帳簿上の利益と実際の手残りがずれやすいという特徴があります。帳簿の利益が小さくても、キャッシュフローは健全というケースは珍しくありません。追加融資の相談では、この実態を数字で説明できるかどうかが、引ける額を左右します。

説明の材料として、次のような「決算書の外の資料」を添えると話が早くなります。

資料何を示せるか
レントロール各室の家賃・稼働・契約期間。収入の実態と安定度(レントロールとは?)
借入一覧表借入ごとの残高・金利・残期間・返済額。全体の返済負担
資金繰り表今後12か月の入出金予定。納税・修繕の資金手当て
一時費用の内訳前期に発生した大規模修繕など、恒常的でない支出の説明
物件別の収支どの物件が稼ぎ、どの物件が足を引っ張っているか

帳簿と手残りがずれる仕組みは不動産の減価償却をわかりやすく解説、審査で決算書のどこを見られるかは融資審査で決算書はどこを見られる?で解説しています。事業環境の全体感を示す統計としては、日本政策金融公庫の調査・研究レポートや、日本銀行の貸出約定平均金利も、金利水準の妥当性を確かめる材料になります。

余力が足りないときに、何から動かすか

試算の結果、狙っている物件に対して余力が足りないとわかった場合、打ち手は「返済力を厚くする」「担保・自己資金で補う」「取得の条件を変える」の3方向に整理できます。

方向具体的な打ち手効果が出るまでの時間
返済力を厚くする空室の解消、賃料・付帯収益の見直し、管理委託料や保険の見直し数か月〜1期
返済力を厚くする高金利の借入を借り換え、年間返済額を下げる1〜3か月
担保・自己資金で補う自己資金の比率を上げる、既存物件の担保余力を提供する即時(資金があれば)
取得の条件を変える価格帯を下げる、残存耐用年数の長い物件に絞る即時(探索条件の変更)
数字を作る一時費用の説明を整え、決算1期を挟んで実態を反映させる半年〜1年

短期で効きやすいのは「既存借入の見直し」と「探索条件の変更」です。逆に、決算を挟んで数字を作り直す方向は時間がかかるぶん、効果は持続します。焦って条件の悪い融資を受けるより、1期待って土俵を整えるほうが結果的に早い、というケースもあります。借り換えの損得の見方は不動産の借り換えはいつが得?で整理しています。

つまずきやすい点・よくある誤解

誤解1:「年収の◯倍まで借りられる」

給与所得者向けの住宅ローンでは年収倍率が使われますが、事業として賃貸業を営む場合、見られるのは事業全体の返済力です。年収倍率の感覚をそのまま持ち込むと、実態とかけ離れた期待値になります。

誤解2:「1棟ごとに審査されるから、既存物件は関係ない」

追加融資では既存の借入と収支がすべて合算されます。既存物件に空室が多い、返済比率が高いといった状態は、新規物件の評価に直接影響します。空室の扱いは満室想定が危ない理由と資金繰りの備えを参照してください。

誤解3:「利益を圧縮して節税したほうがよい」

税負担を抑える工夫と、融資評価を維持することは、しばしば逆方向を向きます。極端に利益を圧縮した決算が続くと、返済原資(税引後利益+減価償却費)が薄く見え、債務償還年数が伸びます。買い増しを続ける計画なら、どこまで圧縮するかは融資方針とセットで決める話になります。法人化の判断も同じ文脈で考える論点です(不動産投資の法人化はいつが最適?)。

つまずき4:自己資金の枠を「余力」に数えてしまう

手元資金をすべて頭金に投入すると、修繕・空室・納税に耐えられなくなります。借入余力の話をするときは、残しておくべき運転資金を除いた自己資金で考えてください。自己資金の目安は不動産投資の自己資金の目安は?にまとめています。

つまずき5:数字を即答できないまま相談に行く

「全体の年間返済額はいくらですか」「今期の減価償却費は」と聞かれて即答できないと、それ自体が管理体制の評価に響きます。複数物件・複数借入を抱えていると、事業全体の返済原資を自分でも把握しきれていないことがあり、それが「借りられるはずの額を借りられない」原因になります。棟数が増えたときに起きる管理の壁は複数物件の管理を一元化するには?で整理しています。

相談前のチェックリスト

面談の前に、次の項目が手元の資料で即答できるか確認してください。

確認項目出典になる資料
事業全体の年間NOI物件別収支の合算
事業全体の年間返済額(元金・利息の内訳)借入一覧表・返済予定表
有利子負債の残高と、平均残存期間借入一覧表
返済原資(税引後利益+減価償却費)決算書
債務償還年数とDSCR上記から計算
直近12か月の資金繰り見通し資金繰り表
一時費用・特殊要因の説明前期の内訳

面談当日の資料と話す順番は銀行融資面談、準備すべき資料と話す順番にまとめています。

Smart CFO なら、事業全体の返済力が常に見える状態になる

Smart CFO は、複数物件・複数借入の収支と返済を横断して集計し、事業全体でいくら返済原資が生まれているのかを一目で把握できるようにします。物件を1つ買い増したときに全体の余力がどう動くのかも、その場でつかめます。上のチェックリストの項目が、資料を作り直さなくても常に最新の状態で並んでいる——それが、追加融資の初速と成否を大きく左右します。金融機関を回るたびに資料を作り直す消耗も、そこで手放せます。

まずは無料で「融資額の目線」をつかむ

収益物件の購入や借入条件の見直しを検討する際は、金利・借入期間などを変えたときの手残りも確認しておきましょう。下記の収益物件シミュレーションでは、物件価格・家賃・自己資金などから収支を無料で試算できます。決算書の提出は不要です。試算結果は参考情報であり、実際の収益や融資条件を保証するものではありません。

この記事の監修者

金井 雅弘

株式会社フォートラスト 代表

  • 宅地建物取引士

都市銀行での融資業務の経験をもとに、不動産オーナー向けの資金調達支援・財務適正化支援に取り組む。金融と不動産の両面から、賃貸経営の実務に即した視点で記事を監修しています。

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