融資

不動産の借り換えはいつが得?検討すべきタイミングと判断材料

監修:金井 雅弘

目次

賃貸経営の借入は、一度組んだら完済まで同じ条件、と思い込んでいませんか。実際には、市場金利や自社の状況が変われば、借り換え(他行への借り直し)で総返済額を軽くできる余地が生まれることがあります。ただし借り換えには手数料も手間もかかるため、「いつ・何を見て動くか」を押さえておかないと、動いた結果かえって損をすることもあります。

この記事では、借り換えの損得を左右する3変数、実際に数字を置いた損益分岐の計算例、動くべき局面と見送るべき局面を分ける判断基準、そして手続きの流れとつまずきやすい点までを順に整理します。個別の可否・条件は金融機関により異なるため、考え方の目安としてお読みください。

借り換えで効くのは「金利差」「残期間」「残高」

借り換えのメリットは、次の3つの掛け合わせで決まります。

  • 金利差:今の金利と借り換え後の金利の差。差が大きいほど効果は出やすい。
  • 残りの返済期間:長く残っているほど、金利差の効果が積み上がる。
  • 借入残高:残高が大きいほど、同じ金利差でも軽くなる金額は大きい。

逆に、完済間近・残高が小さい・金利差がわずか、という状態では、手数料負けして逆に損になることもあります。感覚で動く前に、この3点を具体的な数字で並べて比較することが出発点です。

ざっくりした効果の目安

利息の軽減額は、おおまかには「残高 × 金利差 × 残期間 ÷ 2」で見当がつきます(元金が返済とともに減っていくため、単純な掛け算の半分程度になるという考え方)。この概算で得られる軽減額が、後述するコスト合計を上回らないなら、詳細な試算をするまでもなく見送りの判断ができます。

残高金利差残期間概算の利息軽減額
1億円0.5%20年約500万円
1億円0.5%5年約125万円
3,000万円0.5%20年約150万円
3,000万円0.2%10年約30万円

同じ「金利0.5%下がる」でも、残高と残期間によって効果は10倍以上変わります。「金利が下がるなら借り換えるべき」という単純な話にならないのは、このためです。

借り換えのコストを積み上げる

借り換えを判断するときは、金利差による軽減額から、次のコストを引いた純額で見ます。

費目支払先目安の考え方
新規借入の事務手数料借換先の金融機関定額型と、借入額に対する定率型がある
保証料保証会社一括前払い型と金利上乗せ型がある。前払い分は解約時に一部戻ることがある
抵当権の設定登記(登録免許税)国借入額に対する税率で計算される
抵当権の抹消登記国不動産1個ごとの定額
司法書士報酬司法書士設定・抹消の手続き代行
印紙税(金銭消費貸借契約書)国契約金額の区分ごとの定額
既存借入の繰上完済手数料現在の金融機関契約により発生しない場合もある

印紙税の金額は国税庁のNo.7140 印紙税額の一覧表で、契約金額の区分ごとに確認できます。実際の金額は借入額と物件の個数で変わるため、借換先に「諸費用の見積」を書面で出してもらうのが確実です。

数字を置いた損益分岐の計算例

以下はすべて説明のための仮定値です。

前提(例):残高8,000万円、残期間20年、現在の金利2.5% → 借換後1.8%(金利差0.7%)

項目金額
概算の利息軽減額(8,000万 × 0.7% × 20年 ÷ 2)約560万円
諸費用の合計(例:手数料・保証料・登記・司法書士・印紙)△約200万円
差引の効果約360万円

この例では、諸費用200万円を回収するまでに必要な期間は、軽減額が年あたり平均28万円(560万÷20年)なので約7年です。残期間が7年を切っていれば、同じ条件でも見送りが妥当という読み方になります。「金利差が何%あれば得か」ではなく、「回収に何年かかり、それより長く保有するのか」で考えると判断がぶれません。

同じ前提で金利差だけを変えると、次のようになります。

金利差概算の利息軽減額諸費用200万を引いた効果回収に要する年数
0.2%約160万円△約40万円回収できない
0.4%約320万円約120万円約12.5年
0.7%約560万円約360万円約7年
1.0%約800万円約600万円約5年

検討すべきタイミング

借り換えは「思い立ったとき」ではなく、条件がそろった節目に動くのが基本です。

タイミング見るポイント
市場金利が下がった局面今の契約金利との差が開いているか
変動金利の見直し時期が近い見直しで上がる前に、固定・他行を比較できる(固定金利と変動金利はどっち?)
他行から借り換え提案を受けた具体的な代替条件が手元にある
決算がまとまった直後最新の財務で有利な条件を引き出しやすい
複数物件の借入がバラバラまとめ直しで管理と条件を同時に見直せる(借入一覧表の作り方)
物件の稼働が安定した空室が埋まり、レントロールで実績を示せる
既存行との関係が細っている取引の主軸を移す判断と同時に検討できる

市場金利の水準そのものは、日本銀行が公表している貸出約定平均金利や長・短期プライムレート(主要行)の推移で確認できます。営業担当者の「今は低いですよ」という言葉ではなく、公表された統計で自分の借入金利の位置を確かめてください。

動くべき局面/見送るべき局面

状況判断の方向理由
残高が大きく、残期間が10年以上、金利差0.5%以上積極的に検討諸費用を回収できる余地が大きい
残期間が5年未満原則は見送り軽減額より諸費用が勝ちやすい
金利差0.2%未満既存行との条件見直しを先に借り換えコストに見合いにくい
直近で決算が悪化した時期をずらす審査で条件が悪化する可能性がある
既存行と長期の取引があり、他の便宜を受けている総合で判断金利だけで測れない関係がある
借入をまとめて管理を簡素化したい金利差が小さくても検討余地事務負担・可視性の改善が別の便益になる

「既存行との条件見直し」を先に当たるという選択肢は、意外と見落とされます。他行の具体的な提示条件を持っている状態で相談すると、話が具体的になります。交渉材料の作り方はアパートローンの金利は下げられる?で整理しています。

借り換え以外の選択肢と比べる

「返済を軽くしたい」という目的に対して、借り換えは唯一の手段ではありません。目的別に選択肢を並べ、コストと副作用で比べます。

目的選択肢コスト副作用・注意点
金利を下げたい既存行との条件見直し(金利引下げ交渉)ほぼゼロ応じてもらえるかは取引状況次第
金利を下げたい他行への借り換え諸費用が発生審査があり、団信も入り直しになる
月々の返済を軽くしたい返済期間の延長(リスケ含む)手数料は小さいことが多い総支払利息は増える。今後の借入に影響することがある
総支払利息を減らしたい繰上返済手数料手元資金が減る(繰り上げ返済にデメリットは?)
管理を簡素化したい複数借入の集約借り換えと同等1行への依存度が上がる
金利上昇に備えたい変動から固定への切替条件変更・借換の費用当面の金利は上がることが多い

順序としては、コストがほぼゼロの「既存行との条件見直し」から当たるのが合理的です。他行の具体的な提示を持って相談すると話が具体的になりますが、その打診自体が既存行との関係に影響することもあるため、伝え方には配慮が要ります。

交渉に持っていく材料

金利の引下げにせよ借り換えにせよ、相手が判断できる材料を揃えているかで結果が変わります。最低限、次の4点は数字で示せる状態にしておきます。

  • 借入ごとの残高・金利・残期間・年間返済額(一覧で)
  • 直近3期の決算と、物件別の収支
  • 現在のレントロール(稼働率と賃料の実績)
  • 今後12か月の資金繰り見通し

金利水準の妥当性を語るときは、印象論ではなく公表統計を根拠にします。全国銀行協会は各種の統計・資料を公開しており、業界横断の情報を確認できます。

手続きの流れと期間の目安

借り換えは、申込から実行まで一般に1〜3か月程度かかります。決済日(実行日)は既存借入の返済日に合わせるのが通例で、日程がずれると余計な利息が発生します。

ステップやること準備するもの
1. 現状の棚卸し借入ごとの残高・金利・残期間・繰上手数料を一覧化返済予定表、金銭消費貸借契約書
2. 打診複数行に条件を打診し、諸費用込みの見積を取る決算書3期分、レントロール、物件資料
3. 比較金利だけでなく諸費用・期間・担保条件で総額比較各行の見積
4. 正式申込・審査審査対応、追加資料の提出納税証明、賃貸借契約書など
5. 実行既存借入の完済と新規実行、抵当権の抹消・設定印鑑証明、権利証等

ステップ2で必要になる資料は、融資面談で求められるものとほぼ同じです。何をどの順で出すかは銀行融資面談、準備すべき資料と話す順番、レントロールの作り方はレントロールとは?にまとめています。

実行日は「既存の返済日」に合わせる

新規実行日と既存借入の完済日がずれると、その期間だけ二重に利息が発生したり、日割りの経過利息を別途精算したりする必要が出ます。司法書士の登記手続きも同日に組むのが通例のため、日程は借換先・既存行・司法書士の三者で先に押さえておきます。決算期をまたぐ場合は、諸費用がどちらの期の費用になるかも確認しておくと、決算の見え方が想定とずれません。

つまずきやすい点・よくある誤解

誤解1:「金利が下がれば、その分だけ有利になる」

金利が下がっても、諸費用を回収できるだけの残高・残期間がなければ、総額では損になります。判断は金利差ではなく、諸費用を含めた総返済額の比較で行ってください。

誤解2:「毎月の返済が減ったから得をした」

借り換えのときに返済期間を延ばすと、毎月の返済額は下がります。ただしそれは金利が下がった効果ではなく、返済を後ろに繰り延べただけかもしれません。期間をそろえて比較するのが鉄則です。期間を延ばす判断自体は資金繰りの改善策として有効な場合もありますが、金利の効果と混同しないでください。

誤解3:「保証料は戻ってこない」

一括前払いした保証料は、繰上完済の際に未経過分の一部が戻る取扱いがあります。既存行に「解約返戻の有無と概算額」を確認すると、実質のコストが下がることがあります。

つまずき4:担保・条件が悪くなることがある

金利は下がっても、借換先が追加の担保や連帯保証、預金の拘束を求めてくることがあります。金利以外の条件も含めて比較しないと、後で身動きが取れなくなります。金融機関ごとの傾向は不動産投資の金融機関の種類と特徴を参照してください。

つまずき5:団信を引き継げない・条件が変わる

借り換えは既存の借入を完済して組み直す手続きのため、団体信用生命保険も新たに加入し直すことになります。健康状態によっては加入できない、あるいは条件が付くことがあります。仕組みは団信の仕組みを不動産投資の視点で整理するで扱っています。

つまずき6:手元資金を使いすぎる

諸費用は自己資金から出ることが多く、借り換えの直後は現金が薄くなります。修繕や空室に備える資金まで使ってしまうと、目先の金利を下げた代償が大きくなります。手元資金を返済に回すかどうかの判断軸は繰り上げ返済にデメリットは?、金利上昇局面での備え方は金利上昇にどう備える?で整理しています。

Smart CFO なら、借り換えの判断材料が一目でそろう

ここまでの判断はすべて、「いま自社がどの借入をどんな条件(金利・残高・残期間)で抱えているか」を正確に並べられることが前提です。ところが複数物件・複数借入を通帳やエクセルで追っていると、この一覧を作るだけで一苦労で、しかも作った瞬間から古くなっていきます。

Smart CFO は、複数物件・複数借入の残高と返済条件を一元管理し、借り換えを検討すべき借入と、動かしたときに全体の返済がどう軽くなるかを一目で把握できるようにします。金融機関に相談する際も、根拠となる数字をその場で示せる状態になります。「比較のための資料づくり」に消耗せず、判断そのものに集中できます。

まずは無料で、いまの借入余力と融資の目線を確認する

収益物件の購入や借入条件の見直しを検討する際は、金利・借入期間などを変えたときの手残りも確認しておきましょう。下記の収益物件シミュレーションでは、物件価格・家賃・自己資金などから収支を無料で試算できます。決算書の提出は不要です。試算結果は参考情報であり、実際の収益や融資条件を保証するものではありません。

この記事の監修者

金井 雅弘

株式会社フォートラスト 代表

  • 宅地建物取引士

都市銀行での融資業務の経験をもとに、不動産オーナー向けの資金調達支援・財務適正化支援に取り組む。金融と不動産の両面から、賃貸経営の実務に即した視点で記事を監修しています。

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