融資審査で決算書はどこを見られる?賃貸業のポイントと実態を伝える準備
監修:金井 雅弘
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融資の可否や条件がどう決まるのか、審査は外から見えず不安になりがちです。ただ、金融機関が決算書のどこを見るかには、業種を問わずある程度の共通パターンがあり、賃貸業ならではの読まれ方もあります。この記事では、賃貸業の決算書がPL(損益計算書)・BS(貸借対照表)・主な勘定科目ごとにどう見られるか、そして実態を正しく伝えるための資料準備を整理します。評価の基準は金融機関により異なるため、考え方の目安としてお読みください。個別の判断は取引先の金融機関に、税務の扱いは税理士等の専門家にご確認ください。
近年は、担保や保証だけに依存せず、事業内容や将来性を評価する方向が金融行政から促されています(金融庁「金融仲介機能の発揮」)。決算書は依然として審査の中心ですが、「決算書に表れていない実態をどう補足するか」が結果を左右する場面も増えています。
PLで見られるのは、利益の額より「返済原資」
融資審査の軸は、突き詰めると「毎年のキャッシュで返済を続けられるか」と「借入に対して財務の体力があるか」の2つです。前者を測る材料がPLで、まず見られるのは当期利益そのものよりも、返済の元手になるキャッシュ。一般に「税引後利益+減価償却費」が簡易的な返済原資として扱われます。賃貸業は減価償却費が大きく、帳簿上の利益が薄く見えやすい業種ですが、減価償却費は実際にお金が出ていく費用ではないため、利益に足し戻して評価されるのが通常です。
あわせて見られやすいのが次の点です。
- 家賃収入の安定性:空室や賃料改定による変動が大きくないか、売却益など一時的な収入が混ざっていないか
- 支払利息の重さ:収入に対して金利負担が大きすぎないか
- 修繕費の性質:一時的な大規模修繕か、毎年続く維持費か
- 役員報酬の水準:極端に高いまたは低い場合、その理由を聞かれることがある
- 前期比の増減:金額そのものより「なぜ変わったか」を説明できるかが問われる
数字で追う:返済原資の計算例
言葉だけでは分かりにくいので、具体例で追います。次の決算だとします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 家賃収入 | 4,800万円 |
| 経費(減価償却費を除く) | 1,600万円 |
| 減価償却費 | 1,450万円 |
| 支払利息 | 450万円 |
| 税引前利益 | 1,300万円 |
| 法人税等 | 380万円 |
| 税引後利益 | 920万円 |
この場合、簡易返済原資は 920万円 + 1,450万円 = 2,370万円です。年間の元金返済額が2,100万円なら、差額270万円が実質的な余裕分ということになります。ここが恒常的にマイナスだと、決算上は黒字でも「返済で資金が減っていく状態」と読まれます。逆に、帳簿上の利益が小さくても減価償却費が大きければ返済原資は十分、というケースも珍しくありません。この「利益と手残りのズレ」が賃貸業の決算書を読みにくくしている最大の要因で、減価償却の基本やデッドクロスを理解しておくと自分でも説明できるようになります。
一時的な要因は「なかったこと」にしてもらう
大規模修繕、物件売却による損益、コロナ禍のような一時的な空室増——こうした要因が入った期の決算は、そのまま読むと実力を誤って伝えます。金融機関側も一時要因は除いて見ようとしますが、除くべき金額と理由は借り手が示さないと分かりません。「今期の修繕費1,800万円のうち1,500万円は外壁と屋上防水の大規模修繕で、次回は12年後の想定です。経常的な修繕費は年300万円程度です」と数字で補足できると、実力ベースで評価してもらいやすくなります。
BSで見られるポイント:主な勘定科目と読まれ方
BSでは、借入の大きさに財務が耐えられるかが焦点になります。主な科目ごとの見られ方を整理します。
| 勘定科目 | 金融機関が見るポイント | よくある指摘 |
|---|---|---|
| 現金預金 | 毎月の返済額に対して手元資金に余裕があるか | 月商の何か月分あるかを聞かれる |
| 建物・土地 | 簿価と実勢価格の差(含み益・含み損)がどれくらいあるか | 古い簿価のままで実態が見えない |
| 借入金 | 残高が収益力に見合っているか(債務償還年数) | 短期借入で長期資産を賄っていないか |
| 役員貸付金・仮払金 | 資金が事業の外に流れていないか。内容の説明を求められやすい | 残高が毎期積み上がっている |
| 未収入金・敷金 | 滞納が滞留していないか、預り敷金の性質を理解しているか | 回収不能分が資産に残っている |
| 純資産 | 債務超過になっていないか。実態に引き直すとどうか | 繰越損失の解消見込みを聞かれる |
なかでも「債務償還年数」(借入残高を返済原資で割った年数)は代表的な指標です。賃貸業は借入が大きくなりやすい業種のため、この年数だけで機械的に判断されるのではなく、担保価値や収益の安定性とあわせて総合的に見られるのが一般的です。自社の借入の重さを自分で確かめる考え方は借入余力の見方で詳しく整理しています。
「実態BS」に引き直すとどう見えるか
金融機関は決算書のBSをそのまま信じるのではなく、実態に引き直して評価するのが通常です。代表的な調整を挙げます。
| 調整の対象 | 一般的な引き直し方 | 借り手が用意できる材料 |
|---|---|---|
| 土地・建物 | 簿価を実勢価格に置き換え、含み益/含み損を純資産に反映 | 近隣成約事例、路線価、査定書 |
| 役員貸付金 | 回収可能性が低ければ資産から除外 | 返済計画、返済実績 |
| 回収不能な未収家賃 | 資産から除外 | 滞納一覧と回収状況 |
| 保険積立金 | 解約返戻金相当に評価替え | 保険会社の返戻金試算表 |
含み益のある物件を持っていれば、帳簿上は純資産が薄くても実態では厚い、という説明が成立します。逆に何も材料を出さなければ、簿価のまま評価されて終わります。土地の価格水準を客観的に示す資料としては、国土交通省の土地・不動産関連の情報などの公表データが参考になります。
決算書のほかに求められる資料
審査で見られるのは決算書だけではありません。一般に、次の資料もあわせて提出を求められます。
| 資料 | 何を確認されるか |
|---|---|
| 勘定科目内訳明細書 | 借入の内訳、役員貸付の中身、売掛・未収の相手先 |
| 法人税・消費税の申告書一式 | 決算書との整合、納税の状況 |
| 納税証明書 | 税金の未納がないか |
| 直近の試算表 | 決算後の期中の状況 |
| レントロール | 戸別の賃料と入居状況 |
| 各行の返済予定表 | 全体の返済負担 |
「決算書は出したが内訳明細書は手元にない」というケースは意外と多く、そこで数日止まることがあります。決算時に一式まとめてPDF化しておくと、依頼が来た当日に返せます。
実態を正しく伝える準備:決算書に補足資料を添える
決算書は税務のルールに沿って作られるため、そのままでは賃貸業の実態が伝わりきらないことがあります。次のような補足資料を用意しておくと、実態に沿った評価につながりやすくなります。
- 物件別の収支一覧:どの物件がどれだけ稼いでいるか。全物件を合算した決算書だけでは見えない
- 借入の一覧:金融機関ごとの残高・金利・残期間。全体像を正確に示せる状態にしておく
- 大規模修繕の内訳:一時的な支出だと分かる資料を添え、毎年の実力と区別してもらう
- 実勢価格の参考資料:含み益のある物件は、根拠を示せると実態評価に反映されやすい
- 入居率の推移:単月ではなく12か月の推移で、季節変動と傾向を示す
- 今後の修繕計画:将来の支出を織り込んでいることを示す(修繕積立の考え方)
なお、役員貸付金の整理や勘定科目の見直しなど、決算書そのものに手を入れる対応は税務に関わります。自己判断で進めず、税理士等の専門家に確認してください。
補足資料の書き方の例
補足資料は凝ったフォーマットである必要はありません。1枚に、事実と理由を短く書けば十分です。
【補足1】当期の修繕費増加について
当期修繕費 1,800万円(前期 320万円)
内訳:○○マンション 外壁塗装・屋上防水 1,500万円(20XX年X月実施)
その他 経常的な原状回復・設備修理 300万円
次回の大規模修繕は12年後(20XX年頃)を想定し、年間150万円を積立中です。
【補足2】○○アパートの空室について
当期平均入居率 78%(前期 95%)
理由:隣接地の工事に伴う一時的な募集停止(X月〜X月)
現況:工事完了後に募集再開、直近は入居率 92% まで回復
このように「数字・理由・現況」の3点セットで書くと、担当者はそのまま稟議書に転記できます。相手の仕事を減らす資料が、結果的に自分の案件を前に進めます。
つまずきやすい点・よくある誤解
- 誤解1:黒字なら審査は通る。見られるのは利益の有無だけではなく、返済原資と借入残高のバランス、そして資金の流れです。黒字でも資金が減り続けていれば懸念されます。
- 誤解2:赤字なら門前払い。一時的な要因による赤字は、背景を説明できれば評価が変わることがあります。説明しなければ、ただの赤字として扱われます。
- 誤解3:節税で利益を圧縮するほど得。税負担は減っても、返済原資が小さく見え、借入の評価に影響することがあります。税務と融資は目的が異なるため、どちらを優先するかは方針として決めておく必要があります(税務判断は税理士へ)。
- 誤解4:決算書は税理士の作るもので、経営者は関与しなくてよい。作成は任せてよいのですが、面談で説明するのは経営者です。せめて主要な数字の意味は把握しておきましょう。
- 誤解5:複数の金融機関に、それぞれ違う資料を出してよい。数字が食い違うと信用を大きく損ないます。提出資料は一本化し、コピーを保管しておきます。
- つまずき:決算から提出までが遅い。決算後3〜4か月経ってから持参すると「今はどうなっているのか」を追加で問われます。決算確定後は早めに共有するのが得策です。
政府系金融機関の制度や必要書類は日本政策金融公庫の公式情報で、銀行取引の一般的な考え方は全国銀行協会の解説で、それぞれ一次情報を確認できます。
決算書は「年1回の提出物」ではなく、期中の管理の結果
決算を迎えてから慌てて体裁を整えようとしても、できることは限られます。決算書の内容は期中12か月の意思決定の積み重ねなので、審査で良く見える決算書とは、結局のところ「期中の管理が回っている会社の決算書」です。期中に押さえておきたいポイントを整理します。
| 時期 | やること | 決算書への効き方 |
|---|---|---|
| 毎月 | 家賃入金と滞納の確認、通帳と帳簿の突合 | 未収入金の滞留を防ぎ、実態と帳簿のズレをなくす |
| 四半期 | 試算表で利益と資金の乖離を確認 | 期末に「思っていたのと違う」が起きない |
| 決算3か月前 | 着地見込みを試算し、修繕・設備投資の時期を検討 | 一時要因の説明を事前に組み立てられる |
| 決算後1か月以内 | 決算書一式をPDF化し、補足資料とセットで保管 | 依頼が来た当日に提出でき、審査が止まらない |
| 決算後2か月以内 | 取引金融機関へ決算報告(依頼がなくても) | 平時の情報共有が、いざという時の判断材料になる |
とくに効くのは最後の「依頼がなくても決算報告をする」習慣です。金融機関は事業内容の理解を深めることを求められており(金融庁「中小・地域金融機関向けの取組」)、定期的に数字が入ってくる先ほど、審査の際に一から調べ直す必要が減ります。困った時だけ資料を持ってくる先と、毎期きちんと報告してくる先とでは、同じ決算内容でも受け取られ方が変わるのが実務です。
期中の「利益と資金のズレ」を毎月見ておく
賃貸業でとくに起きやすいのが、帳簿上の利益と手元資金の動きが噛み合わない状態です。元金返済は費用にならないので利益を圧迫しませんが、資金は確実に出ていきます。逆に減価償却費は費用ですが資金は出ません。この二重のズレを毎月確認していないと、決算で初めて「利益は出ているのに預金が減っている」と気づくことになります。月次で資金の動きを追う方法は賃貸業の資金繰り予測で整理しています。
Smart CFO なら、審査で聞かれる数字がその場で出せる
物件別の収支、借入ごとの残高・金利・残期間——審査で問われるのは、決算書を眺めるだけでは出てこない「横断の数字」です。物件や借入が増えるほど、表計算ソフトや通帳から拾い直す作業は重くなります(表計算ソフト管理の限界)。Smart CFO は複数物件・複数借入を一元管理し、全体の状況を一目で可視化。融資や金利交渉、決算の場面で、根拠となる数字をその場で示せる状態を保てます。審査のたびに資料を作り直す手間から解放され、実態を伝える準備が日常の管理の延長で済むようになります。
当日の資料の並べ方や話す順番は銀行融資面談、準備すべき資料と話す順番にまとめています。
決算書は審査されるだけでなく、交渉の材料にもなる
収益物件の購入や借入条件の見直しを検討する際は、金利・借入期間などを変えたときの手残りも確認しておきましょう。下記の収益物件シミュレーションでは、物件価格・家賃・自己資金などから収支を無料で試算できます。決算書の提出は不要です。試算結果は参考情報であり、実際の収益や融資条件を保証するものではありません。
この記事の監修者
金井 雅弘
株式会社フォートラスト 代表
- 宅地建物取引士
都市銀行での融資業務の経験をもとに、不動産オーナー向けの資金調達支援・財務適正化支援に取り組む。金融と不動産の両面から、賃貸経営の実務に即した視点で記事を監修しています。
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