財務管理

アパート経営の資金繰り表の作り方|項目と記入例

監修:金井 雅弘

帳簿の上では黒字なのに、返済日の前になると口座残高が気になって落ち着かない——アパート経営・賃貸経営ではよくある悩みです。その不安を数字で解消する道具が資金繰り表です。この記事では、資金繰り表の目的、賃貸業で最低限押さえる項目、月次表の記入例、支出が集中する時期のつかみ方、更新を続ける運用のコツ、そして手作業運用の限界までを整理します。あくまで考え方の目安であり、税金や融資に関わる個別の判断は、税理士や金融機関など専門家に確認しながら進めてください。

資金繰り表は「利益」ではなく「現金の残高」を見る道具

損益計算書の利益と、手元の現金は一致しません。減価償却費は現金が出ていかない費用ですし、借入の元金返済は費用にならないのに現金は減っていきます。だから「黒字なのにお金が足りない」が起こります。

資金繰り表の目的はシンプルで、「いつ・いくら入り・いくら出て・月末残高がいくらになるか」を時系列に並べ、残高が危なくなる月を事前に見つけることです。逆に言えば、残高の推移さえ読めれば様式は問いません。利益と現金のズレそのものについては手残りの読み方も参考にしてください。

決算書との役割の違い

資料見ているもの向いている用途
損益計算書一定期間の利益収益性の把握、納税額の見当
貸借対照表ある時点の資産・負債財務の健全性、借入余力の把握
資金繰り表月ごとの現金の出入りと残高支払いに詰まる月の早期発見

3つは競合しません。資金繰り表は「支払えるかどうか」だけに焦点を当てた、いちばん実務寄りの表です。一般的な様式は日本政策金融公庫が公開している資金繰り表の記入例(PDF)や、中小機構の資金繰り表の解説が参考になります。賃貸業向けに項目を読み替えて使えば十分です。

賃貸業で最低限押さえる項目

凝ったフォーマットは不要です。月ごとの列に、次の区分だけ揃えれば実用になります。

区分主な項目注意点
収入家賃・共益費、礼金・更新料、駐車場収入満室想定ではなく入金実績ベースで置く
毎月の支出借入返済(元金+利息)、管理委託費、水道光熱費返済は借入ごとに返済予定表から転記する
不定期の支出固定資産税、保険料、修繕費、原状回復費支払月にまとめて置く(月平均で均さない)
大きな出入り物件の購入・売却、融資の実行、納税予定が立った時点ですぐ反映する
残高前月繰越、月末残高(=翌月繰越)前月繰越+収入−支出=月末残高として毎月つなぐ

レイアウトは「列=月、行=上の区分」で、各月とも前月繰越に収入を足し支出を引いた月末残高を出し、それを翌月の前月繰越に引き継ぎます。

月次表の記入例

1棟10戸のアパートを想定した3か月分の例です(金額はすべて説明用の仮定値です)。

行4月5月6月
前月繰越1,800,0001,905,0001,760,000
家賃・共益費620,000620,000595,000
更新料・その他60,00000
収入計680,000620,000595,000
借入返済(元金+利息)380,000380,000380,000
管理委託費・共用光熱費75,00075,00075,000
固定資産税(第1期)0210,0000
原状回復費120,000100,0000
支出計575,000765,000455,000
月末残高1,905,0001,760,0001,900,000

5月は固定資産税と原状回復が重なり、収支が単月で赤字になっています。月ごとの損益だけを見ていると見落としますが、残高でつないでいれば「どこまで薄くなるか」が事前に見えます。

支出が集中する月をカレンダーで押さえる

賃貸業で特に見落としやすいのが不定期の支出です。年間で見ると、出ていくタイミングにはっきり偏りがあります。

時期出ていきやすいもの
1〜3月確定申告に伴う納税、繁忙期の原状回復・募集費用
4〜6月固定資産税・都市計画税の第1期、火災保険の年払い
7〜9月固定資産税の第2期、台風・大雨に伴う突発修繕
10〜12月固定資産税の第3期、大規模修繕の着工が多い時期

納付時期や金額は自治体・契約によって変わります。毎月の収支が回っていても、こうした月に残高が凹みます。税金の額や納付時期は個別の事情で変わるため、税理士等の専門家に確認したうえで数字を置くのが安全です。大規模修繕のように金額の大きい支出は、修繕積立の考え方とセットで計画に織り込みます。

残高を見るときのチェックポイント

表を作った後は、次の3点だけ毎月見れば十分です。

  • いちばん残高が薄くなる月はいつか:その月の残高が、毎月の支出1〜2か月分を下回るなら要注意です。
  • その薄さは一時的か構造的か:翌月以降に戻るなら一時的、戻らないなら収支そのものの見直しが要ります。
  • 返済比率は無理をしていないか:家賃収入に対する年間返済額の割合が高いほど、空室や修繕の余地が小さくなります。借入の重さの見方はDSCRの基本で整理しています。

残高が細ると分かった時点で動くほうが、選べる手は多く残ります。追加融資や借り換えの相談も、資金が尽きる直前より前のほうが話を進めやすいのが一般的です(可否と条件は金融機関により異なります)。

更新を続けるコツは「精度より頻度」

資金繰り表は、作った瞬間から古くなり始めます。運用のコツは次の3つです。

  • 締めのタイミングを決める:月1回、通帳の実残高と表の残高を突き合わせる日を固定する。ズレの原因を放置しない。
  • 予定と実績を分ける:先の月は「予定」、過ぎた月は「実績」に置き換える。予定とのズレ方に、滞納や計上漏れの兆候が表れます。
  • 12か月先まで置く:一般に、返済・納税・保険料など日付が決まっている支出を先に埋めておくと、残高が薄くなる月が早めに見えます。融資の相談も、資金が細る前に動くほうが選択肢は広がりやすいものです。

つまずきやすいポイント

  • 家賃を満室想定で置く:入金実績ベースにしないと、常に楽観的な残高になります。
  • 返済額を月平均で置く:ボーナス返済や金利変動がある場合、実際の引落額とずれます。返済予定表から転記します。
  • 敷金・預り金を収入に混ぜる:返還義務のあるお金は自分の収入ではありません。残高には含まれても、使える現金として数えないよう分けて置きます。

手作業運用の限界——物件と借入が増えると急に苦しくなる

1〜2棟のうちは、通帳とエクセルの手作業でも回ります。しかし物件と借入が増えると、口座ごとの入出金の転記、借入ごとの返済予定表の手写し、修繕予定の反映と、更新の手数が一気に増え、どこかで漏れが出ます。数字が古くなった資金繰り表は、見ていない表と同じです。詳しくはExcel管理の限界で整理していますが、「作る手間が重くて更新が止まる」が手作業運用の典型的な行き詰まり方です。

Smart CFO なら、資金繰りの全体像がいつでも手元にある

Smart CFO は、複数物件・複数借入の収支と返済条件を一元管理し、全体の資金繰りを一目で見渡せるようにする賃貸経営向けの財務管理サービスです。物件別・借入別の数字を転記して表を作り直す作業から解放され、金融機関との融資・金利交渉や決算の場面でも、根拠となる数字をその場で示せます。「表を作る時間」ではなく、「残高をどう保つか考える時間」に集中できる状態をつくります。

まずは今の管理方法から相談してみる

資金繰り表は、完璧な様式であることよりも、自社の物件・借入の構成に合っていて更新が続くことが第一です。いま通帳とエクセルの管理に限界を感じている方も、物件を増やす前に管理の土台を整えたい方も、下記のお問い合わせから現在の状況をお聞かせください。物件数や借入の状況に合わせて、資金繰り管理の進め方をご案内します。

この記事の監修者

金井 雅弘

株式会社フォートラスト 代表

  • 宅地建物取引士

都市銀行での融資業務の経験をもとに、不動産オーナー向けの資金調達支援・財務適正化支援に取り組む。金融と不動産の両面から、賃貸経営の実務に即した視点で記事を監修しています。

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