収益物件

収益物件のキャッシュフロー(手残り)を正しく読む方法

監修:金井 雅弘

目次

収益物件の良し悪しは、表面利回りだけでは判断できません。実際に手元にいくら残るか——キャッシュフロー(手残り)を読めるようになると、物件同士の比較や買い増しの判断がぶれなくなります。逆にここが曖昧なままだと、「利回りは高いのに、なぜかお金が残らない」物件をつかんでしまいます。

この記事では、手残りの計算式を段階に分けて分解し、実際に数字を置いた計算例、物件を比較するときの判断基準の表、そしてつまずきやすい論点までを順に整理します。読み終えたときに「この物件の手残りは年いくらか」を自分の手で出せる状態になることをゴールにしています。なお、税額の扱いは個人・法人や他の所得の状況で変わるため、最終的な税務判断は顧問税理士にご確認ください。

手残りは4段階に分けて計算する

手残りを一気に計算しようとすると、必ずどこかで項目を取りこぼします。次の4段階に分けて、上から順に埋めていくのが確実です。

段階名称計算何を表すか
①実効総収入満室想定家賃 − 空室損 − 滞納損 + 雑収入現実に入ってくるお金
②営業純利益(NOI)① − 運営費物件そのものの稼ぐ力
③税引前キャッシュフロー② − 年間返済額(元金+利息)借入条件を反映した手残り
④税引後キャッシュフロー③ − 納税額実際に自由に使えるお金

②のNOIは借入条件の影響を受けないため、物件同士の素の比較に向いています。一方、③④は同じ物件でも借入条件次第で大きく変わるため、自社が買った場合の判断に使います。この使い分けを混同すると、「A物件のほうが優れている」という結論が、実は「A物件の融資条件が良かっただけ」ということが起こります。

① 実効総収入 — 満室想定を鵜呑みにしない

販売資料の利回りは、ほぼ例外なく満室想定です。実際には空室期間、募集中の広告料(AD)、退去時の原状回復、滞納が発生します。実効総収入を出すときは、次の3点を控除します。

  • 空室損:想定稼働率(例:95%なら5%を控除)
  • 滞納損:回収できなかった分。少額でも枠として置いておく
  • 雑収入の加算:駐車場、自販機、更新料など

想定の置き方については満室想定が危ない理由と資金繰りの備えで詳しく扱っています。

② 運営費 — 「引き忘れやすい費目」を先に列挙する

運営費(OPEX)で漏れやすいのは、毎月出ていかない費目です。年に1回、数年に1回しか発生しない支出ほど、初回のシミュレーションから抜け落ちます。

費目発生頻度見落としやすさ
管理委託料毎月低
共用部の水道光熱費毎月中
固定資産税・都市計画税年1回(納期は分割)中
火災保険・地震保険数年に1回の一括払いが多い高
原状回復・入居募集費用退去のたび高
エレベーター・消防設備の保守点検年1〜数回高
大規模修繕の積立十数年に1回のための毎年の内部留保非常に高

大規模修繕は「発生していないから運営費ゼロ」と扱うと、修繕の年に一気に資金が飛びます。毎年の積立として運営費に含めておくのが安全側の置き方です。目安は賃貸経営の大規模修繕費用はいくら備える?にまとめています。

数字を置いた計算例

仮の数値で1棟分を通しで計算してみます。以下はすべて説明のための仮定値であり、実在の物件の数字ではありません。

前提(例)

  • 物件価格:1億円、満室想定家賃:年800万円(表面利回り8.0%)
  • 想定稼働率:95%、滞納損:家賃の0.5%
  • 運営費:実効総収入の20%(積立を含む)
  • 借入:8,000万円、金利2.0%、期間25年、元利均等(年間返済額は約407万円)
  • 建物価格:4,000万円、耐用年数22年の木造で新築取得と仮定 → 年間減価償却費は約182万円
  • 実効税率:30%と仮置き
段階計算金額(年)
満室想定家賃—800万円
空室損(5%)800万 × 5%△40万円
滞納損(0.5%)800万 × 0.5%△4万円
① 実効総収入—756万円
運営費(20%)756万 × 20%△151万円
② NOI—605万円
年間返済額元金約247万+利息約160万△407万円
③ 税引前CF—198万円
課税所得NOI 605万 − 利息160万 − 減価償却182万263万円
納税額263万 × 30%△79万円
④ 税引後CF198万 − 79万119万円

表面利回りは8.0%でしたが、実際に手元に残るのは投資額1億円に対して年119万円です。自己資金2,000万円で買ったとすれば、自己資金に対する手残りの率は約6.0%になります。この「表面利回り8.0%」と「手残り119万円」の距離感が、物件比較の実感を作ります。

同じ物件でも借入条件で手残りは変わる

上の例で、借入期間だけを変えるとどうなるかを並べます(他の条件は同一)。

借入期間年間返済額(概算)税引前CF税引後CF
20年約486万円119万円約42万円
25年約407万円198万円約119万円
30年約355万円250万円約171万円

期間が長いほど手残りは厚くなりますが、支払う利息の総額は増え、完済時の年齢や物件の残存耐用年数の問題も出てきます。「手残りが厚い=有利」と単純化できないのはこのためです。金利タイプの選び方は固定金利と変動金利はどっち?を参照してください。

「帳簿の利益」と「手元のお金」は一致しない

賃貸経営でつまずきやすいのが、減価償却と元金返済の扱いです。

項目帳簿の利益手元のお金
減価償却費用として引かれる現金は出ていかない
ローンの元金返済費用にならない現金は出ていく
ローンの利息費用になる現金も出ていく
敷金の預かり収入にならない現金は入る(預り金)

この2つのズレがあるため、「黒字なのにお金が残らない」「帳簿は薄いのに現金は回っている」という状態が起こります。減価償却の基本的な扱いは国税庁のNo.2100 減価償却のあらまし、中古物件を取得したときの耐用年数の計算はNo.2109 新築家屋等以外の資産の耐用年数が一次情報です。不動産所得そのものの計算方法はNo.1370 不動産所得を受け取ったときにまとまっています。

仕組みの解説は不動産の減価償却をわかりやすく解説、償却が終わって資金が細る現象は不動産投資のデッドクロスとは?で扱っています。

元金返済と減価償却の大小関係が分岐点

税引後キャッシュフローがプラスかマイナスかを大づかみに判断したいときは、年間の元金返済額と年間の減価償却費を比べるのが早道です。

状態何が起きるか打ち手の方向
減価償却 > 元金返済帳簿の利益が実際の手残りより小さく出る。納税は軽め手残りを再投資・修繕積立に回す余地がある
減価償却 ≒ 元金返済帳簿の利益と手残りがおおむね一致する現状の把握がしやすい安定局面
減価償却 < 元金返済帳簿は黒字なのに現金が細る(デッドクロス)借り換え・繰上返済・売却・追加取得を検討

この分岐は、築古の木造物件を短期の償却で取得した場合ほど早く訪れます。取得の時点で「何年目にこの線を越えるか」を出しておくと、慌てずに済みます。

長期で見ないと判断を誤る

単年のキャッシュフローが良くても、保有期間全体で見ると印象が変わることがあります。長期で必ず動く変数は次の4つです。

変数動く方向手残りへの影響
家賃築年数とともに下がりやすい収入が細る
稼働率競合の新築供給や人口動態で変動収入が細る
修繕費築年数とともに増えやすい支出が増える
減価償却費耐用年数の経過で終了する納税が増える

これらは同時に、しかも保有期間の後半に重なって効いてきます。長期の家賃前提の置き方は賃貸経営の家賃下落をどう想定する?、会社全体の資金の流れの見通し方は賃貸経営の資金繰り表の作り方にまとめています。

手残りを厚くする5つのレバー

手残りが薄いとわかったとき、闇雲に動く前に、どのレバーが自分の物件で効くのかを見極めます。効果の大きさと、実行の難しさは比例しません。

レバー打ち手の例効きやすい局面注意点
収入を増やす賃料改定、更新料・駐車場・付帯収益の見直し稼働が高く、周辺相場に対して賃料が低いとき退去リスクとの見合いで判断する
空室を減らす募集条件・仲介会社への働きかけ、原状回復の期間短縮稼働率が90%を下回っているとき広告料の増加で相殺されることがある
運営費を下げる管理委託料・保険・保守契約の見直し、相見積前オーナーから引き継いだ契約が残っているとき品質を落とすと空室に跳ね返る
返済を軽くする借り換え、期間の見直し残高・残期間が大きいとき諸費用と総返済額で判断(借り換えはいつが得?)
税負担を平準化する修繕の時期分散、資本的支出と修繕費の区分整理償却終了の前後税務判断は税理士と行う

このうち、多くの物件で最初に効くのは運営費の見直しです。収入を動かす施策は入居者との関係が絡むため時間がかかりますが、管理委託料や保険の契約は、こちらの意思だけで見直しに着手できます。

月次で追うなら3つの数字だけでよい

年に一度の決算まで待つと、手を打てる時期を逃します。月次で追うのは次の3つに絞ると続きます。

  • 入金額:家賃の入金合計。予定との差が空室・滞納のシグナルになる
  • 返済額:元金と利息の内訳。利息は経費、元金は経費でない
  • 月末の現金残高:数か月先の納税・修繕を賄えるか

この3つを毎月同じ形式で並べるだけで、「気づいたら現金が細っていた」はかなり防げます。運用が止まらない仕組みの作り方は資金繰り表のExcel更新が続かない理由にまとめています。

つまずきやすい点・よくある誤解

誤解1:「表面利回りが高い=手残りが多い」

表面利回りは満室想定家賃 ÷ 物件価格でしかなく、運営費も返済も税も反映していません。上の計算例のとおり、8.0%の物件でも手残りは投資額の1.2%程度になり得ます。比較するなら、最低でもNOIベース(実質利回り)に揃えてください。

誤解2:「元金返済も経費だから、赤字なら税金はかからない」

元金返済は経費になりません。したがって、現金が出ていっているのに課税所得は減らない、という状態が普通に起こります。ここを取り違えると、納税の資金を用意できずに慌てることになります。

誤解3:「減価償却で節税できるから、償却が大きい物件が有利」

減価償却は課税のタイミングを後ろにずらす面が強く、売却時には取得費が償却分だけ小さくなるため、譲渡所得が増える方向に働きます。売却まで含めた損得で見る必要があります。譲渡所得の計算は国税庁のNo.3252 取得費となるものを確認してください。出口の考え方は収益物件の出口戦略の考え方で整理しています。

誤解4:「敷金が入ったから今月は儲かった」

敷金は預り金であり、いずれ返す(または原状回復に充てる)お金です。手残りの計算に混ぜると、実力を過大評価します。日々の現金の出入りを月単位で管理する方法は不動産業の日繰り表の作り方が参考になります。

つまずき5:初年度の一時費用を織り込んでいない

購入時には仲介手数料、登記費用、不動産取得税(取得の数か月後に届きます)、火災保険の一括払い、印紙税などが発生します。印紙税額は国税庁のNo.7140 印紙税額の一覧表で確認できます。初年度のキャッシュフローだけが極端に薄く見えるのは、多くの場合これが原因です。自己資金の目安は不動産投資の自己資金の目安は?にまとめています。

Smart CFO なら、買う前も買った後も手残りが見える

ここまで見てきたとおり、手残りを正しく読むには、家賃・運営費・返済・減価償却・税を同じ土俵に載せ、しかもそれを保有期間の全年度分並べる必要があります。物件が1棟のうちは手計算でも回りますが、棟数と借入本数が増えると、表を更新するだけで一日が終わります。

Smart CFO は、物件ごとの収支と返済を取り込み、利回りだけでなく実際の手残り、そして長期のキャッシュフロー推移まで可視化します。候補物件を「手残りベース」で横並び比較できるので、買う前の判断がぶれません。保有後は、複数物件を合算した事業全体のお金の流れが常に見える状態になり、「気づいたら現金が細っていた」を防げます。複数棟を持ったときに起きる管理の壁は複数物件の管理を一元化するには?で整理しています。

まずは無料でこの物件の手残りをシミュレーションする

物件ごとの手残りや長期の見通しを、まずは1件試してみるのが近道です。下記の収益物件シミュレーションでは、物件と借入額を入力すると、借入期間の目安を耐用年数と実績統計から自動想定し、利回り・手残り・30年見通しを無料で確認できます。気になる物件の比較検討として、まずはここから試してみてください。

この記事の監修者

金井 雅弘

株式会社フォートラスト 代表

  • 宅地建物取引士

都市銀行での融資業務の経験をもとに、不動産オーナー向けの資金調達支援・財務適正化支援に取り組む。金融と不動産の両面から、賃貸経営の実務に即した視点で記事を監修しています。

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