収益物件

不動産の減価償却をわかりやすく解説——帳簿の利益と手残りがズレる理由

監修:金井 雅弘

目次

確定申告や決算のたびに、「帳簿では利益が出ているのに、通帳のお金は思ったほど増えていない」と首をかしげていませんか。その正体の多くは減価償却です。この記事では、不動産賃貸業を始めたばかりの方に向けて、減価償却の仕組み(建物・設備と耐用年数)、実際の計算例、中古物件の耐用年数の出し方、そして帳簿の利益と手残りがズレる理由を順に整理します。

税額は物件や契約の条件で大きく変わり、建物と土地の按分や設備の区分は個別性が高い論点です。本記事は考え方の目安としてお読みいただき、個別の判断は税理士等の専門家に必ず確認してください。制度の根拠は国税庁タックスアンサー No.2100 減価償却のあらましに整理されています。

減価償却とは——「お金は出ていかないのに費用になる」仕組み

建物のように長く使う資産は、買った年に全額を費用にせず、使える年数に分けて少しずつ費用計上します。これが減価償却です。建物を購入した場合、購入代金はその年に一括で費用になるのではなく、毎年「減価償却費」として分割して帳簿に載っていきます。

ポイントは、減価償却費はお金の支払いを伴わない費用だということです。実際の現金は購入時(あるいは借入の返済時)に動いており、償却費を計上する年に新たにお金が出ていくわけではありません。ここが、帳簿と通帳がズレる出発点になります。

なお、土地は使っても価値が減らない資産とされるため、減価償却の対象になりません。物件価格のうち償却できるのは、建物と設備にあたる部分だけです。

土地と建物の按分——ここを間違えると全部ズレる

売買契約書に「土地○○円・建物○○円」と内訳が書かれていれば、原則その金額を使います。総額しか書かれていない場合は、固定資産税評価額の比で按分する方法などが実務でよく使われます。

たとえば総額5,000万円の物件で、固定資産税評価額が土地1,200万円・建物800万円だったとします。

  • 建物比率 = 800万円 ÷(1,200万円+800万円)= 40%
  • 建物価格 = 5,000万円 × 40% = 2,000万円
  • 土地価格 = 5,000万円 - 2,000万円 = 3,000万円

この2,000万円が償却の元になる金額(取得価額)です。建物価格を大きく取れば毎年の償却費は増えますが、根拠のない按分は認められません。按分方法の妥当性は税理士に確認してください。なお、消費税の課税事業者から購入した場合は、契約書の消費税額から建物価格を逆算できることがあります。

減価償却の対象になるもの・ならないもの

区分減価償却の対象補足
土地対象外使用によって価値が減らないとされる
建物本体対象構造ごとの法定耐用年数で償却
建物附属設備対象電気・給排水・空調など
構築物(塀・駐車場舗装など)対象種類ごとに年数が異なる
器具備品(エアコン単体など)対象少額の場合は別の扱いがある
借入金の元金対象外そもそも費用ではない
仲介手数料・登録免許税など場合による取得価額に含めるものと経費にできるものがある

建物と設備で分ける——耐用年数の目安

減価償却は「何年に分けて費用にするか」を法定耐用年数で決めます。年数は構造や資産の種類ごとに、減価償却資産の耐用年数等に関する省令の別表で定められています。住宅用の代表例は次のとおりです。

資産の区分法定耐用年数の目安定額法の償却率の目安
木造(住宅用)22年0.046
軽量鉄骨造(骨格材肉厚3mm以下・住宅用)19年0.053
重量鉄骨造(骨格材肉厚4mm超・住宅用)34年0.030
RC造・SRC造(住宅用)47年0.022
建物附属設備(電気・給排水など)15年前後0.067前後

同じ購入価格でも、木造は短い期間で大きく償却が進み、RC造は長く薄く続きます。償却率は国税庁の減価償却資産の償却率表で確認できます。

償却方法——建物は定額法に限られる

平成10年4月1日以後に取得した建物、および平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備・構築物は、定額法で償却します。定率法を選ぶことはできません。この経緯は国税庁タックスアンサー No.2106 定額法と定率法による減価償却に説明があります。

定額法の計算式はシンプルです。

1年分の減価償却費 = 取得価額 × 定額法の償却率

実際に計算してみる——木造とRCの比較

先ほどの例(建物価格2,000万円)で、構造だけを変えて比べてみます。年の途中で取得した場合は月割りになりますが、ここでは分かりやすさのため通年で計算します。

木造アパート(法定耐用年数22年)の場合

  • 取得価額:2,000万円
  • 償却率:0.046
  • 年間の減価償却費 = 2,000万円 × 0.046 = 92万円

22年にわたって毎年92万円が費用になります(最終年は備忘価額1円を残すため端数調整が入ります)。

RCマンション(法定耐用年数47年)の場合

  • 取得価額:2,000万円
  • 償却率:0.022
  • 年間の減価償却費 = 2,000万円 × 0.022 = 44万円

同じ2,000万円でも、木造は年92万円、RCは年44万円。総額は同じでも、どの年に費用が寄るかが違うわけです。木造は早い時期に利益を圧縮しやすく、そのぶん償却が終わった後の反動も早く来ます。

年の途中で取得した場合の月割り

10月に引き渡しを受けた木造アパートなら、その年に費用にできるのは3か月分です。

  • 92万円 × 3か月 ÷ 12か月 = 23万円

初年度は思ったより費用が小さくなる点に注意してください。

中古物件の耐用年数——簡便法の計算

中古で買った建物は、法定耐用年数をそのまま使うのではなく、経過年数に応じて短く見積もる方法があります。実務でよく使われるのが簡便法です。計算の根拠は国税庁タックスアンサー No.5404 中古資産の耐用年数に示されています。

状況計算式
法定耐用年数を全部経過している法定耐用年数 × 20%
一部だけ経過している(法定耐用年数 - 経過年数)+ 経過年数 × 20%

いずれも1年未満の端数は切り捨て、結果が2年未満なら2年とします。

築25年の木造アパートを買った場合

法定耐用年数22年を全部経過しているケースです。

  • 22年 × 20% = 4.4年 → 端数切り捨てで 4年
  • 建物価格1,000万円なら、償却率0.250で年間250万円

たった4年で1,000万円が費用になります。築古木造が「節税になる」と語られるのはこの仕組みが背景ですが、裏返せば5年目からは償却費がゼロになり、利益が一気に膨らむということでもあります。

築10年の重量鉄骨造を買った場合

法定耐用年数34年のうち10年が経過しているケースです。

  • (34年 - 10年)+ 10年 × 20% = 24年 + 2年 = 26年
  • 建物価格3,000万円なら、償却率0.039で年間約117万円

なお、購入後に大規模なリフォームを行い、その金額が取得価額の一定割合を超える場合は簡便法を使えないことがあります。中古耐用年数の判定は個別性が高いため、実際の処理は税理士等に確認するのが安全です。

建物と附属設備を分けるかどうか

建物価格をすべて「建物本体」として計上するか、給排水・電気・空調などの附属設備を切り出して計上するかで、初期の償却費は変わります。附属設備の耐用年数は15年前後と本体より短いため、切り出せば取得後の10〜15年は費用が大きくなり、その後は小さくなります。

たとえば建物価格2,000万円のRCマンションで、うち300万円を附属設備として区分した場合を比べます。

区分の仕方初期の年間償却費(概算)16年目以降の年間償却費(概算)
すべて建物本体(47年・0.022)約44万円約44万円
本体1,700万円+設備300万円(15年・0.067)約57万円約37万円

ただし、区分するには金額の根拠が要ります。新築なら工事請負契約書の内訳、中古なら合理的な見積りが必要で、根拠のない按分は認められません。区分するかどうかは長期の税負担の置き方に関わる判断なので、税理士に相談したうえで決めてください。

帳簿の利益と手残りがズレる2つの理由

賃貸経営の数字には、「帳簿の利益(損益)」と「実際の手残り(現金)」という2本の物差しがあります。ズレを生む代表が次の2つです。

項目帳簿(費用になるか)現金(出ていくか)
減価償却費費用になる出ていかない
借入の元金返済費用にならない出ていく
借入の利息費用になる出ていく

減価償却費は「費用なのに現金が出ない」、元金返済は「現金が出るのに費用にならない」。正反対の性質を持つ2つが同居しているため、帳簿の利益と通帳の残高は一致しません。

数字で追ってみる

年間家賃収入600万円、運営費150万円、支払利息80万円、元金返済220万円、減価償却費250万円という前提で並べます。

項目帳簿の利益手残り(現金)
家賃収入+600万円+600万円
運営費-150万円-150万円
支払利息-80万円-80万円
元金返済計上しない-220万円
減価償却費-250万円現金は動かない
合計120万円150万円

この年は「利益120万円・手残り150万円」で、手残りのほうが多く見えます。ところが償却が終わって減価償却費が0円になると、帳簿の利益は370万円に跳ね上がる一方、手残りは150万円のまま変わりません。増えた250万円分に対して税負担が発生するため、手残りは税金の分だけ減ります。手残り側の数字の追い方は手残りの読み方でも整理しています。

償却が進んだ後半に注意——「利益は増えたのに苦しい」の正体

保有が長くなると、設備の償却が先に終わり、建物の償却費も減っていきます。一方、元利均等返済では返済額に占める元金の割合が年々増えていきます。つまり「費用になる支出」が減り、「費用にならない支出」が増える。帳簿の利益は膨らんで税負担が重く感じられるのに、手残りは増えない——一般にデッドクロスと呼ばれる状態です。詳しくはデッドクロスとはで整理しています。

この転換点がいつ来るかは物件の構造や借入条件によって異なります。目安として、次のタイミングを購入時にカレンダーへ書き込んでおくと備えやすくなります。

確認する項目見るべき時期
建物附属設備の償却終了取得から15年前後
中古簡便法で短縮した建物の償却終了取得から4〜10年程度
元金割合が返済額の半分を超える時期返済予定表で確認
大規模修繕の想定時期12〜15年ごと

返済予定表と償却スケジュールを並べて置いておけば、どの年に転換点が来るかは購入時点で見通せます。借入側の条件を一覧にする方法は借入一覧の作り方、繰上返済で転換点をずらす選択肢の是非は繰上返済のメリット・デメリットで整理しています。

つまずきやすい点・よくある誤解

よくある誤解実際の考え方
減価償却は「節税策」である費用の計上時期を前倒しする仕組みであり、税負担が消えるわけではありません。売却時の譲渡所得計算では償却済み分が取得費から差し引かれます
土地も償却できる土地は対象外です。総額のうち建物部分だけが対象になります
築古なら常に有利償却期間が短いぶん、終了後の反動が早く来ます。融資期間が取りにくいという側面もあります
償却費は自由に増減できる個人の場合、所得税では原則として強制償却で、任意に見送ることはできません
修繕費はすべて経費資産価値を高める支出は資本的支出として資産計上し、償却の対象になります。判定は国税庁タックスアンサー No.2210 必要経費の知識などを参考に、税理士へ確認してください
売却すればチャラになる償却で下がった簿価が譲渡益を押し上げることがあります。出口まで含めた試算が要ります

なお、事業として貸し付けているかどうかで扱いが変わる項目もあります。不動産所得の基本的な考え方は国税庁タックスアンサー No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)を確認してください。

Smart CFO なら、物件ごとの利益と手残りを分けて追える

減価償却と返済のズレは、1棟だけでも混乱しがちですが、複数物件・複数借入になると通帳と表計算ソフトだけで追い切るのは大変です。Smart CFO は、複数物件・複数借入の状況を一元管理し、全体を一目で可視化します。物件ごとの数字が常にそろっているので、金融機関との融資・金利交渉や決算の場面でも、根拠となる数字をその場で示せます。資料をその都度作り直す手作業から解放され、「どの物件がいつ苦しくなるか」という判断そのものに時間を使えるようになります。

まずは無料で、物件の手残りを長期で見通す

帳簿の利益に惑わされないためには、「手残りが長期でどう推移するか」を購入前から数字で見ておくことが第一歩です。下記の収益物件シミュレーションでは、物件価格・家賃・借入額を入力すると、利回り・月々の手残り・30年の収支見通しを無料で確認できます。検討中の物件がある方も、保有物件の感覚を数字で確かめたい方も、まずはここから試してみてください。

この記事の監修者

金井 雅弘

株式会社フォートラスト 代表

  • 宅地建物取引士

都市銀行での融資業務の経験をもとに、不動産オーナー向けの資金調達支援・財務適正化支援に取り組む。金融と不動産の両面から、賃貸経営の実務に即した視点で記事を監修しています。

株式会社フォートラストの会社情報 →

関連記事